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ラード
どちらかといえば思い出をしたためようかな?
ゴールデン街 かおりノ夢ハ夜ヒラクにて。
緊急事態宣言下というのもあって昼営業をおこない、おかず3品ごはん味噌汁で600円という破格で提供している。いや…これ安すぎるだろ…と思いながらごはんをパクパクしていると、耳馴染みの良い音楽が流れてきたので、脊髄反射でShazamする。へえ、こんなに60年代R&Bをそのままの音で表現してる人がいたんですね。日本語なのにちゃんとアレサフランクリンみたいです。「分かる!日本語のソウルミュージックって少ないよね。どれも余計な工夫を混ぜたりしててさ。この大上留利子さんはストレートにソウルを表現してて良いよ」まったくその通りだなと思いながら、味噌汁をすすった。
新宿OTOにて。
セカンドアルバム発売前後くらいでHALFBYさん出演イベントに通っていた。多くはライブイベントだったけれど、その日は珍しくDJイベント。狭い箱に人間が詰まってて、休憩スペースでは普通にHALFBYさんがくつろいでおり、正直、緊張。
隣席の若者が「おまえこういうとこ慣れてんの?」「おお余裕。初対面でも話しかけてすぐ友達になるよ」「マジか」「まあ見てな」と聞こえよがしに会話している。くるなよくるなよと思ってたのに、男子は僕とお嫁さんに話しかけてくる。ああ、そうなんですか。へえ。はあ。
3度のキャッチボールでみるみる気まずそうになっていく若者2人の顔面。コミュ障でごめん…。
LINEにて。
ひさしぶりー、なんかアイコン変わったね?きみに似てるけど、違う人かな。「そうそう、これYMOの高橋さんだよ。人から指摘されて似てるって気づいたわ」たしかに遠目で見るとそっくりだね。「そういえば俺、結婚したよ」…え?結婚する、じゃなくて…した⁉︎ 「うん。今は**に住んでる。式は挙げる気ないんだ」…いや…式とか関係なく、先に教えてほしかったよそれは……。
いつの間にかぼくは友人枠から外れていたみたいだ。学生時代、ふたりでカラオケに入り散々雑談して、最後に1曲だけ歌われた彼のルイアームストロングを聴いていたとき、この友情はずっとつづくと思ったんだけどな。
渋谷のファミレスにて。
大学時代の部活仲間とひさびさに集まり、ライブ参加していた。後輩たちが推しているOGRE YOU ASSHOLEやgroup_inouも良かったけれど、なにより我々を沸かせたのは在日ファンクのステージ。「ほんと良いですよね、在日ファンク」
いやいや、3年前からハマケンの新しいバンドかっこいいって言ってたけど誰も相手にしなかったじゃん。『きず』聴いてもらっても誰もピンときてなかったじゃん。あの時のぼくに謝ってくれないかな。「え…それ謝る必要あります…?先輩がただすこし早く気づいたってだけですよね」
うわ、ほんとだ、謝る必要ぜんぜんないね、えーと、なんかごめん。
今は亡き恵比寿みるくにて。
だいすきな箱が幕を下ろすことになり、この場所で何度も観てきたユアソンが演奏するという日。ぼくは会場前で体育座りをしていた。こんな日に限って職場の忘年会幹事が被り、飲まされ、酩酊…。どうしてこうなった。「いや、べろべろじゃないすか!」一緒にライブ参加予定だった後輩ふたりが爆笑しながら駆け寄ってくるのが見える。
次の瞬間、駅のホームで吐いてる。その次、自宅ベッドで目覚め、床に後輩たちが転がってるのに気づく。え?ライブは?「無理でしょ。入らずに家まで付き添いましたよ。しかたないっすねー」
おまいらすげえイイヤツじゃん…マジでごめんね。さようなら、恵比寿みるく。
博多百年蔵にて。
結納の帰り道。恋人とその両親、さらにじぶんの両親とも別れ、フライトまでの時間が空いた。せっかくだからクラムボンのライブアルバムを聴きながら開催地の酒蔵へむかう。「こちらのホールで演奏されました」特別に開けてもらって、ぼーっと眺める。
結納の場で交わされたやり取りがチカチカと浮かんでは消える。結納品を並べる両親の背中、気合を具現化したような料理、緊張していて上滑りする会話。ああいう儀式ってどうも苦手だ。
ホールには靴を脱いであがる。冷たくてでこぼこした床の木板を感じながら、じぶんに戻れた気がしている。結婚にはこの先、今日みたいな"無理"がどれほどあるんだろう。
ゴールデン街 bar図書室にて。
その日は放送中のドラマ『重版出来!』について話していた。黒木華さん扮する新米編集者を通して漫画製作の裏側を、そして漫画に関わるひとびとの人間ドラマを描いていく。その作品ぼくも毎週たのしく観てるんですけど、物語の中にどれぐらい虚構が含まれてるんでしょう。漫画編集ってあんなにドラマチックなんですかね? そのとき、カウンターのいちばん奥でスマホいじってるだけだった男性がギロっとぼくに目線を向け「あのドラマは、リアルです」。
喰らったぼくの脳内では、ドラマのエンドロール同様この曲のイントロが再生されましたよね。おそらくベテラン編集者であろうあのひとの視線、エッモ…
今は亡き綱島駅の銭湯、東京園にて。
『片想インダ温泉』と銘打たれたイベントは、銭湯の宴会場を貸し切ったずいぶん特殊なものだった。入浴権利つきで、お客さんの何割かはすでに湯上がりの状態。トイレを利用するときに見かけた2階側の貸しスペースでは、おじいさんおばあさんたちが社交ダンスのようなものに取り組んでいた。片想いのステージもすばらしい盛り上がりだし、なんだろう、天国みたいなイベント、そして場所だな。
帰りがけにぼくもお風呂に入る。大きな浴槽で、イベントのお客さん、地元のひとびとがゆるゆるになっている。あ、すきだなーこの感じ。
そのあとめちゃくちゃ銭湯に通った。
いきつけの美容院にて。
「今回はどんな感じにしましょうか。トップを長めにとってサイド刈り上げたツーブロックなんか流行ってますし、セットも楽ですよ」たしかに流行ってますねえ。でもあんまりそういうのすきじゃなくて…いつもどおり将棋の羽生さんみたいな髪型にしてください。「うーん、似合うと思うんだけどなあツーブロック…」すいません、それカッコイイんで。カッコイイ感じに寄せる自分が苦手で。さらに、格好悪いくらいの方がむしろカッコイイと思ってる節がありまして…。「なるほどなるほど。わかった。つまり、向井秀徳的なカッコ良さってことですね」
あ〜〜〜…この人めっちゃ話わかるじゃん!末永くよろしく!
通っていた美容院にて。
担当してくれている方の退職が近いとの報を受け急いで予約。美容師さんはいつもどおり淡々と仕事を進めてらしたので、こちらも空気を読んで、いつもどおり渋谷系音楽や裏原宿文化についての話を。いろいろ教えてもらう。
カットが終わり店外へ。ご退職されるそうですね、おつかれさまでした。「店内では触れないように気を使ってくれましたよね?ありがとうございます。実は独立するので、よかったら引き続き担当させてください」ぜひぜひ。参考まで、新しいところの場所と店名は?「場所は**駅で、お店の名前は"ハサミ"です」
そんな単純な名前アリ?めっちゃいいじゃん!
深夜の新宿二丁目、路上にて。
20代中盤は月1ペースでゴールデン街にくりだし、お酒を呑みながらよくわからない大人の話を聞くという遊びに興じていた。閉塞感あるサラリーマンの日常からちょっとだけ逸脱した社会勉強。
だいたい2軒で終電を逃し、4軒目でもうアルコール許容量を超えて呑めなくなる。そういうときは二丁目エリアに移動し、店々に浮かぶゲイの方々のシルエットを背景に、ただただ歩いて始発を待つ。フィッシュマンズを聴きながら。この時間に開くゲイビデオ専門店もあったりしてまるで裏側の世界。ゲーム『MOTHER2』のムーンサイドみたいだ。はいはいいえでいいえははい。ハロー!…そしてグッドバイ。
大学時代のバイト先にて。
時給は低いけれどひとりでマイペースに店番できるし、なによりBGMが自由だったのでお気に入りだった。生まれ育った街にあるレンタルビデオ屋さん。
常連のOLさんは明らかに酔っていて「この曲…そんなに若いのにアース聴くんですか⁉︎私、大ファンなんです。モーリスホワイトを、今の私とあなたの距離で見たこともありますよ!」あ、こういう話し方をするひとだったんだ。「私が奢りますから、こんどの来日公演一緒にいきましょうよ」え、いいんですか?ぜひご一緒したいです。自分では海外ミュージシャンのチケットは高くって。
翌週そのOLさんはビデオ返却に来られて、特に会話もなく帰っていった。
大学時代のバイト先にて。
時給は低いけれどひとりでマイペースに店番できるし、なによりBGMが自由だったのでお気に入りだった。生まれ育った街にあるレンタルビデオ屋さん。
見知った人間もこの店の会員。その日は小学生時代の同級生が来ていた。「きみさ、今の生活に不満とか、将来に不安はない?」「俺はいま最高にたのしいよ!」「会社のみんなで宇宙ロケットを飛ばすのが目標なんだ!」「友達と一緒にうちの先輩の話聞きにこない?」
彼はいつもビデオを借りず、あやしいビジネスの話をハイテンションで捲し立てる。僕はCDをデタミネーションズに変える。「あれ、この曲かっこいいね?」お、やっと話が逸れたぞ。
高校の文化祭、ある教室にて。
クラスの演劇公演までどう過ごしたものか。そも、あまり登校していなかったのでタイムスケジュールがよくわからない。聞けるクラスメイトは居ないし、友人はそれぞれ他クラスの集まりに加わっている。こういうイベント事のとき、友達 づくりを放棄したツケが回ってくるなあ。本番前どれぐらいでスタンバイが始まるのやら…下手に席を外せない。しかたないから昼食はコンビニ弁当をサッとたべていた。
遠くからクラス唯一のガングロギャルが「え、弁当買ってきてひとりで食べてる…!」と悲鳴をあげ、誰かに引っ張られて教室を出ていったようだ。聞こえてます。イヤフォンをつけ、机に突っ伏した。
大学の運動場にて。
学校主催のスポーツイベントに毎年音響スタッフで参加していた。スピーカー設置して、ケーブルつなげて、マイクやミキサー仕込んだらあとはBGM係。音響仕事のなかでも自由に曲を流せるイベントは希少で、この現場はいつもたのしみなのです。
参加者はスポーツサークルの陽キャだらけ。交流をもたないタイプの人々に囲まれて居心地はよくない。自分の趣味のなかから青空に抜けるような音楽を、とブライアンセッツァーオーケストラやタワーオブパワーを流していた気がする。
野球の開催時刻にこの曲を投下。陽キャの視線がぼくに集中。各所であがる笑い声。「なにこれ!」「下手すぎ!」今年もたのしいな。
中学校の教室にて。
合唱コンクールの選曲を決めるクラス会。「提案のある者はCD持ってきてなぜ歌いたいか話してね」担任が予告したあと、教室ではGLAYが…ブラックビスケッツが…エキセントリック少年ボウイだな(それウケる!)…などのワードが聞こえてくる。勘弁してくれ、そんなうすら寒い思い出ほしくないよ。
「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」「この支配からの卒業」おとなたちの前でこれを歌うのはロックでしょ、と思い提案したら、すでに懐メロだった尾崎の物珍しさがクラスメイトから好評。
当選の瞬間、担任は歌詞カードを眺めながら「初めて知ったけど、良い曲じゃん」とつぶやく。教師がそれを言うんですね。
今は亡き渋谷シネマライズにて。
社会人になってすぐの頃、ひさしぶりに高校の同級生と集まる。かつてみんなで痺れたヒップホップグループが映画になる。『ビースティボーイズ 撮られっぱなし天国』地下1階の映画館には客もまばらで、スペースある分すこし気が大きくなる。ライブ気分でMCタイムに席を立ち売店へ。「この作品お酒でるんですよ」と店員さん。
友達は昔からおもしろい人たちで、だからか社会に馴染む気はあまりないようだ。ぼくは普通のサラリーマンになり、やっぱつまんないやつ、と思われていた気がする。帰り道「ちょう面白かったー。おまえすごいな。よく見つけるよなー」
ぼくの感性はまだ、死んでないかなあ。
新宿三丁目の焼き鳥屋にて。
お互いに素性をよく知らない男オタク2人と、でんぱ組.incになにかあるたび集まって、話している。
ひとりのオタが「これ思い出すたびおれ泣いちゃう…」つぶやいたあと、語り始める。「キラキラチューンを初めて聴いたとき、これこそまさに求めていた曲‼︎と感極まって、衝動のまま当時住んでた高円寺から秋葉原までチャリ飛ばして、ディアステージ5周したんです。深夜2時くらいに。ほんとに良い曲でさ…」
しずかな熱がこもっている彼の表情と、予告どおり頬をすべり落ちてゆく涙を眺めながら、ぼくは、人類がこの世に誕生してよかったな、とかんがえていた。
大学の部室にて。
活動中は部員の持ち寄ったCDをよくBGMにしていた。当時、なかなか先鋭的だなーと感じたこの曲を流していると、UKロックずきな先輩が「なにこれ?アニソンみたいじゃん。きもちわるいから消してよ」とくさしてきて、同級生も「うん。俺もきもちわるいと思う」と同調し、2対1かーと屈服した。
たしかその5年くらい後。件の同級生がPerfumeにぞっこんだと言うので「数年前、きみにきもちわるいと言われたCAPSULEもおなじ中田ヤスタカさんの楽曲だよ。あのときのこと、謝ってくれ」と抗議したら「そんなの覚えてないし」といなされた。
彼のことを許せる日はくるのだろうか。
高校の放送室にて。
教室で孤立していたぼくにとって、他クラスの友人と集まる昼休みの放送室が唯一の居場所。放送委員会。
スガシカオ、スライとファミリーストーン、オーティスレディング、ダニーハサウェイ。じぶんのすきな偏った曲を流すから、ほとんどの教室で音量をOFFられていた。
その日はメジャーデビュー前のエゴラッピンを流していたところ、とつぜん放送室のドアが開く。「これ誰の曲?かっこいいね!」入口を見ると学年でもオシャレで有名な軽音部の女子。「これね、関西のバンドなんだ」ぼくが説明すると、うわ…こんなオタクが流してたのかよ…女子は明らかな困惑顔で「ああ、そうなんだありがと」ドアが閉まった。
ある年のCOUNTDOWN JAPANにて。
大学のサークル仲間たちと参加。その内のひとりはじぶんの恋人。でも、まだお付き合いしていることは内緒だった。
われわれふたりだけで観るステージなら、手をつないであるいても大丈夫。SAKEROCK〜YOUR SONG IS GOODと流していき、このエリアには仲間は数人いるはずだけど、まず鉢合わせすることはないだろう。離れないようにたびたび手をつないで距離を守る。
あ。でもだめだ。これは、この曲はブチ上がってしまう。ごめん。モッシュに加わってくるね?
「ああいうたのしい場面になると笑顔で置いてくんだなーと思ったよ」と、お嫁さんは語る。
ゴールデン街 bar図書室にて。
漫画がテーマなお店なんだけど、その日は音楽の話をしていて、たしかユアソンについてだったと思う。ひとしきりカクバリズムの話をして、じゃあそろそろ別のを…と店主さんが切り替えた音楽が木下美紗都さんのアルバムだった。
え、木下美紗都さん聴いてるひと、初めてみました。すごいすきなんですぼく、このひと。うれしい。カンパイしたいので一杯いれてくれませんか?
一息に話して「いいカンパイですね」と応えてもらい、木下美紗都さんのルーツに近そうないろんなミュージシャンを教えてもらった。
木下美紗都さんはSpotifyに登録がなかったので、教えてもらったほうを。
ゴールデン街 西瓜糖にて。
漫画『A子さんの恋人』について居合わせたひとびとで話していた。「やっぱり恋愛の最小単位は3人だと思う」へえ、そういうものなんだ。じぶんは恋愛経験が少ないから、0(存在しない)か1(存在する)かってかんじで、あんまりピンとこないな。
漫画話がゆるやかに終了し、凪のような沈黙が数秒間。じぶんだけ恋愛弱者だ、なんだか心が寒くなってきた、そろそろおいとまかなと思った矢先この曲が流れてくる。静かなギターと歌声が染みこんでゆく。
しずしずとShazamを起動したらさすが店主さんは目ざとくて「乱れてロンリーという曲です」
最後まで聴きたかったのでハイボールを注文した。