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途方のない迷宮の中で囁く誰かの声は、昔からよく知っている響きだった。
外界との繋がりを断つ事で、自分の中の聖域、もはやそれは自分にとっては現実の、自分だけの空想世界を広げる事に成功した。
そのベールの中で乱反射する、ピアノとライドシンバルの連鎖の中で、蠢くように憂いを歌うウッドベース。
この歌声は、もう一人の自分自身の声だった。
昔からよく知っている、喋る時に脳に響いていたメロディ。
表現欲やインスピレーションは、そのもう一人の小さな自分が、聖域の中で隠し持っている。
この音楽は、その構造を理解する手助けをしてくれる。
祈りは無意味かもしれない。
祈れば、手が塞がってしまうから。
でも、そこに人間らしさがある。
それを忘れた時に、人は獣に成り変わる。
もはやこの世界で、人ひとりができることは、たかが知れてしまう。
その逃れないカルマに、この音楽は、孤独と焦燥の讃美歌として機能する。
もしも、女神なんてものに逢えたら、褒められたい。そんなシンプルな欲望を肯定するような、あの世とこの世の中間、辺獄へ行くことができる。
闘争や衝突だけが、人を人たらしめるわけではない。
何かを憂いたり、何かを信じて祈ることで回る、たくさんの大きな命の歯車が、ゆっくりと動くさまを見られる。
物理学の修学や美術館スタッフ等の経験を経て作り出される彼の音楽は、獣が持つインスピレーションを、クレバーに、極めて記号的に、色鮮やかにレイヤリングされていく様が見てとれる。
あらためて、音楽は、その人の人生そのものなんだと感じる。
孤独、優しさ、闘争、諦念、様々な感情を掻き毟られる。
人の温もりさえ感じられる、脈打つような電子の波に、脳がハッキングされていく。
このデバッグミュージックで、完璧過ぎる世界の欠陥を暴く事ができる。