90年代アメリカのオルタナティヴ・ロック勃興を考える時、トゥールの果たした役割の大きさは無視できない。一見簡素ながら、無限に増殖し続けるかのようなリフ中心の音構成と、呪術的にまとわりつくメイナードのヴォーカル。型に囚われない独自の構築美を編み出した彼らは、世間が評するところの『プログレ』あるいは『メタル』の範疇を始めから越えていた。
さらに重要なのは、人間性をめぐるテーマの重さ。音の上っ面以上に『精神的にヘヴィな』ロックを追求するトゥールは、人間の“影”を極大化する。しかしそこには、世界を覆う暴虐の力に抗して新たなヒューマニズムに至る、“ポジティヴな影”が包み込まれているのではないだろうか。