hitorrikult
rat man of dark woods
独りKULT
生ぬるい風が吹く中、夜空を見上げていた。
「実はさ、僕、乱視なんだよね。」
「え?私もです。月が一つに見えた事は無いです。」
この時間を共にしている理由は、ぼやけた星々を眺める為では無いのだ。
僕も彼女も。
女は上書き保存。そんな事はわかってる。
それでも、もしほんの一瞬でも何かのきっかけで僕の事をふと思い出してくれる瞬間があれば、なんて思ってしまう。そんな男の幻想の歌。
酷く心に刺さる。
今日は珍しく横殴りの雨が降ってる。
あの頃はこんな日も好きだったんだけどさ。
君が居なくなってから、雨が苦痛で仕方ないよ。
スズキのレッツ4 に跨り58号線を横断する。
頬で弾ける雨粒が、涙と混ざって後方へと消えていく。
本当にごめんよ。
僕の前方不注意で廃車にしてしまった日産キューブ。
僕の元にもう一度帰ってきてくれないだろうか。
ラブストーリーは突然に始まるが、突然には終わってくれない。重たい影を引き摺るように”前“に向かって進むしかないのだ。
ところで、僕が進んでるこの方角は“前“で合ってる?
もう10年以上前の話だ。当時とても好きだった女の子と、イヤホンを分け合って音楽を聴いていた。
右耳からはマッキーの声、左耳からはハミングする合唱部出身の美しい彼女の声が入ってくる。僕も一緒にハミングしたら「やめて」と言われた。
ねえ、僕は今もまだあの時のまま音痴だよ。